2007年6月13日 (水)

「てれんぱれん」青来有一 (文學界2007年7月号)

伊藤整文学賞受賞第一作と銘打たれている。
ちなみに受賞作は、短編集『爆心』。
単なる原爆小説ではない、人間の業を真っ直ぐにみつめた迫力ある書である。
それにしてもこの伊藤整文学賞、目配りが利いている賞だ。
『日本文学盛衰記』高橋源一郎、『シンセミア』阿部和重、『金比羅』笙野頼子、『退廃姉妹』島田雅彦と、歴代受賞作を眺めてみてもわかる通り、きちんとした仕事の跡を残す作品を的確に選んでいる。
文壇の残された良心というか、佳品セーフティネットともいうべき役割を果たしているのではないか。

てれんぱれん、とは長崎地方の方言で、なんとなくぶらぶらしている様子のこと。
主人公の「わたし」の父は、てれんぱれんを体現するような人物であった。
家はニラ焼きを名物にする居酒屋で、母が一人で切り盛りしていた。
てれんぱれんな父を見て、母は苛立ちを隠せない様子であったが、父はあまり気にせずマイペースに生きていた。
そんな父には、あるものが見える能力があった。
それは「わたし」にも、いつしか見えるようになった。

俗な言い方をすると、ある超能力を持った父子ということになってしまうが、
そんな言い方では、きっとこの作品の本質を見失ってしまうだろう。
しかし、このオカルトめいた要素を通してでしか、語れなかったことが確かにここに存在している。
同じ能力を有したことによって、はじめて知った父の気持ち。
性格が違うので、理解は到底できないが、そういう気持ちがあるのだということを許すことができる瞬間。
そういう想いを描くために、この超能力は極めて有効に機能している。

世の中のてれんぱれんなことに我慢できず、イライラしている人、そんな人が読むと、少しはやさしい気持ちになれるかもしれない。

(文學界2007年7月号)

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