2006年4月 6日 (木)

「天の穴」高樹のぶ子 (新潮2006年4月号)

 今回から始まった新企画「アジアに浸る」。九州大学特任教授になった高樹のぶ子が、アジア各地の作家の意欲作を紹介しながら、自作も並べて発表していくというもの。どうやらこの先5年も続けていく予定らしい。

 第1回はフィリピン篇。フィリピン作家のG.C.ブリヤンス「アンドロメダ星座まで」が紹介されている。これは作者の幼少時代の原風景がモチーフになっているものだが、どうしてもこういう原風景的な作品は、その育った環境というものを全く知らないため、味わい方が手探りにならざるをえない。例えば、外国人に「三丁目の夕日」を理解しろといっても無理なことと同様である。

 空つながりということで書いたのか、高樹の作品は、台風の話である。台風の目を見たいという少年を偶然街で拾い、一緒に台風の目を見に行くという小品である。妙に気象や宇宙知識に詳しい子供で、どこかこの世の者でないような雰囲気さえ漂う。台風の穴からは何かが降ってくるとも語る。それはかつて台風で吹き上げられた人間や物が落ちてくるということらしい。穴からは何も落ちてこなかったが、なぜかマンゴーの匂いがしてきた。遠い空から運ばれてきたその匂いがアジアとの繋がりを感じさせてくれる。

 私も何度か体験したが、九州の台風というのは関東などで体験するものと威力が違う。近づくにつれ、街全体の標高が急に上がったように空気が薄くなる。その緊張をはらんだ息苦しさを一度でも味わうと、この作品の匂いがいっそう感じられるようになると思う。
(新潮2006年4月号)

fantasia
416324560X高樹 のぶ子

文芸春秋 2006-01
売り上げランキング :


Amazonで詳しく見る
by G-Tools

| | トラックバック (0)