2006年3月28日 (火)

「静かな夜」佐川光晴 (群像2006年4月号)

 前作は頭痛という病を巡って夫婦が苦しみやがて再生への扉に至るという話だったが、今回もやはり家族が苦しみから快復へと向かうパターンを踏襲している。パターン化しているとはいえ、それは単なる自己模倣に陥ることはなく新しい視点を加えてくるところはさすがだ。

 不慮の事故で息子を喪い、続けて夫まで亡くしたゆかりは、まだ幼稚園児の娘と二人の暮らしを始める。そこに現れた「亜紀ちゃんのママ」。まだ20代半ばのこのヤンママは、子供のことより自分の恋愛や欲望を優先するタイプで、およそゆかりとは正反対の性格である。
 娘同士が幼稚園で同じクラスという縁で、ゆかりはこの親子につきあうようになるのだが、結局、向こうは都合の良いベビーシッターができたくらいにしか受け止めていない。そうした態度に怒りを覚えるゆかり。
 仕事も私生活もままならない中、ゆかりはとうとう自暴自棄になり急性アルコール中毒で入院する。そこで出会った医師から彼女はある言葉を告げられる。「相身互い」。このわかりにくい言葉に衝撃を受け、再生へのヒントを感じていく。

 相身互い。なんとも不思議な言葉である。辞書を引くと「(相身互身の略)同じ境遇や身分の者は互いに同情し合い助け合うべきであるということ」。表面の意味だけ見れば、ただの当たり前のことを言っているだけなのだが、「相身互い」と言葉を口の中でころがすと、なんとも奇妙な感じがしてくるのが不思議である。
 印象に残る言葉というのは、聞いた後でも喉に小骨が引っかかっているような、どこか違和感があるものだ。その違和感こそが言葉の真意が隠されている。ゆかりとヤンママは正反対の性格で、理解しあうことはこれからも難しいだろうが、それでもどこかで二人は互いを必要としている。「相身互い」という言葉の違和感をあえてそのままにしながら、彼女たちは再生への道を進んでいくのだ。

(群像2006年4月号)

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2005年11月17日 (木)

「銀色の翼」佐川光晴 (文學界2005年11月号)

 頭痛に悩む夫婦の話。頭痛といっても生半可なものではない。いわゆる「銀色の翼」という幻の風景が網膜の奥に浮かんでくるような痛さである。
幸い、私はそういった幻を見たことはないが、「銀色の翼」というネーミングからは実に痛そうな感じが伝わってくる。
 作者は一貫して家族を軸にして物語をこれまでも作ってきたが、今回のストーリーは過去のものより切実さのレベルが一段高い。
 主人公より妻の病状のほうが重く、頭痛以外にも精神的にも病んでいく過程は読むのが辛くなるほどだ。
 自分の身内がこのような状態に陥ったらと思うと怖ろしいが、主人公は献身的に妻に接する。しかし主人公もまた病人であるわけで、妻の言動は時に彼を深くえぐる。

 彼と妻を繋ぐアイテムに「石」が登場するのだが、これがなかなか厄介な代物で、二人の縁結びであり、亀裂を生み出すものでもあり、そして再生をもたらすものでもあるのだ。現代の世の中では、とかく「癒し」という言葉がもてはやされるが、本当の「癒し」に至るには、苦痛を伴った再生が必要である。クライマックスで彼らが石を巡って行動するシーンは、まさにそうした本当の「癒し」へのプロセスを描いているようだ。
(文學界2005年11月号)

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