2005年11月15日 (火)

「磐神」田口ランディ (文學界2005年11月号)

 このところ数ヶ月続いている広島原爆もの。今回はある女性作家が「若い世代にアピールするヒロシマ」を書くために、広島を取材する過程で、発見する一冊の本をめぐる話である。今までのものとは違って、少し作者自身の取材プロセスにも関わるような、いわばメタな設定だ。
 取材に協力してくれる新聞記者が、なんだか安いメロドラマに出てくるようなキャラで脱力してしまうけれど、作者がこのシリーズを一話ごとに全く違う雰囲気で書き分けていこうとする努力は評価あれるべきであろう。
 
 作者が発見する一冊の本は、被爆女性によって書かれたものであるが、その文体が独特で、あまり万人受けするようなものではなかった。事実、主人公は様々な人にこの「磐神」という小説を読ませるのだが、返ってくる感想はどれもいまいちのものばかり。ついに彼女はこの小説は、自分のためだけに書かれたものであり、自分だけが理解できるものだという結論に至る。
 よく人は誰も一生でひとつの物語を書けるというが、この「磐神」はまさにそんな物語であった。その物語が真に届く読者もまたこの世にひとり。マスメディアで本の売れ行きだけがもてはやされる時代、この一対一の構図がなぜか幸せに見えるのは、私だけではあるまい。
(文學界2005年11月号)

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