2005年9月 4日 (日)

「西東マンション2D」大竹昭子 (文學界2005年9月号)

 小人閑居して不善を為す、と言うが、ただ暇でのんびり暮らすなら害もないが、暇をもてあました挙げ句、関心が隣人などに向かうと話は別である。
 失業し、部屋に日がな籠もっている主人公の男の関心はもっぱら隣人の生活にある。
 耳をすまし隣人の生活音を聞き、隣人らしき姿を町で見かけると後を尾ける。隣人が何か行動を起こしてくれないと、男も物足りないようだ。偶然、隣人の物と思われるネガフィルムを拾い、男はそこから隣人の家族像を思い描く。隣人について知ることがもはや男の生き甲斐にもなっている。
 そんなある日、隣人は急病で入院する。救急車がやってきた時、隣人に付き添う女性を認める。男は隣人とその女性の関係をあれこれ考える。
 隣人が女性とともに退院してきた日、男は拾ったネガをプリントして隣の部屋に投げ込もうと計画する。

 奇妙な味の小説で、読後に様々なイメージが残る。ここまでエスカレートすることはなくても、誰もが隣人という存在に関心を向けたことはあるだろう。近所付き合いという慣習が消滅した現代においては、隣人とは幻のような存在で、生活していることは互いにわかっていても実体として認識することはあまりない。それ故、いったん関心が向くと、想像が膨れ上がり、妄想と化していく恐れがある。
 しかし作者の大竹氏はいったいどういうきっかけでこうした不思議なタッチの作品を書くに至ったのか。氏は既に写真関係や紀行ものなどで様々な著作を持っている。今回の作品はまさに奇妙な味の小説といった趣きだが、やや神経症的で密かな悪意をも漂わせる主人公の男の造形等、他の作家には見られない個性を放っている。今後もぜひこうした雰囲気の作品を続けて書いてほしい。
(文學界2005年9月号)

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