2005年9月 3日 (土)

「どうで死ぬ身のひと踊り」西村賢太 (群像2005年9月号)

 前作の「一夜」も同棲する女との確執が凄まじかったが、今回も期待に違わず、派手に男としての弱さを晒け出し、鬼気迫る作品に仕上がっている。

話の骨格は、敬愛する作家の藤沢清造に関する活動に、女との生活を絡めるという、もうすっかりお馴染みのパターンなのだが、あまり飽きずに読める。むしろこのパターンは既に一種の味として定着しつつあって、今後、他のテーマで作品を書くことはあっても、この清造+女ものは、定期的に登場してもらいたいと願う。



 ここに登場する男は俗に言うDV男であるが、DV男にはそれなりの論理があることがこれを読むとよくわかる。女からすれば、何が気に食わなくて手を上げるのか全く理解不能であろうが、この作品は男の気持ちの側のみから書かれているので、女のささいな一言が男をどのように苛立たせていくかそのプロセスが克明に辿れて面白い。

しかしどれだけ苛立ったとしても暴力を振るってしまえば負けであり、女は逃げ、結局、男は途方に暮れる。代わりの女がいるはずもなく、男は卑屈なまでに女に帰ってくるように懇願する。このあたりの未練たらたらな行動は、他人事として見ると、もはや喜劇に近い。

女も一度は好きになった相手だからか、よせばいいのに男の説得に負けて、元の鞘に戻る。そしてまた同じDVの繰り返しが始まる。このへんは絵に描いたような「だめんず・ウォーカー」である。手垢がついた言い方だが、この不毛な繰り返しがまさに人間の業というやつなのだろう。



 女と諍いが起こるのは食事時が多いのだが、今回はチキンライス(もどき)とカツカレーだ。「一夜」の時はデパートで買ってきた蟹の足が元で大喧嘩になるが、この作者はそうした食べ物をセレクトするセンスが非常に優れている。カツカレーなんて痴話喧嘩の原因にいかにも相応しいではないか。怒りにまかせて台所にぶちまけたカツカレーの飛沫と残骸が、男のどうしようもない弱さとせつなさを物語っている。

(群像2005年9月号)



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