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2006年12月 4日 (月)

「いやしい鳥」 藤野可織  (文學界2006年12月号)

 第103回文學界新人賞受賞作。
 家に訪れた教え子が、奇妙な鳥に変身するドタバタ劇。
 鳥には恐怖のイメージがある。元々、鳥は恐竜だったというから、ほ乳類の本能として人間は、元は虫類としての鳥に恐怖を感じてもおかしくないらしい。
 
 鳥に変化した男との闘いぶりは壮絶そのものである。襲われるべき原因がきちんとあるならあまり怖くもないのだが、その原因がはっきりしないため、恐怖が倍加する。所詮、鳥と人間では話が通じない。

 鳥人間との闘いを演じている男宅の隣人も、薄々異常を感じている。
 話の冒頭と最後に、隣人からの視点で、この状況を客観的に描いているのが特徴的である。ノーマルな隣人の目から語ることで、日常の中であくまで起きた出来事ということを強調したかったのだろうか。

 偶然だが、同時受賞した「裏庭の穴」も隣人がキーとして出てくる。
 最近は隣人トラブルの事件も多いから、「不気味な隣人」というモチーフはわかりやすいのかもしれない。

 古い恐怖のイメージである「鳥」と新しい恐怖である「隣人」を組み合わせたところにこの小説の面白さがあるようだ。

(文學界2006年12月号) 
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2006年12月 3日 (日)

「裏庭の穴」 田山朔美 (文學界2006年12月号)

 第103回文學界新人賞受賞作。
 娘にせがまれて買ったミニブタを世話する主婦。ブタは日に日に大きくなり、もはやミニブタとは言えなくなるほど巨大になる。
 主婦は孤独である。いつも不気味な監視をしている隣人、浮気をしている夫、家族と没交渉の娘。話し相手はブタだけである。
今どきの主婦の悩みをデフォルメしたような作品だ。
 
 落語に「堪忍袋」という噺がある。
 不平不満をすべて吸収してくれる便利な袋。しかし、よってたかって皆で不平をぶちこんだ結果、最後は破れて、ぎゅうぎゅうに詰め込まれた不平の叫びが一挙に飛び出すというオチである。
 このブタは、まさに堪忍袋の如く、主婦の不平を呑み込んでいく。
 便利なブタである。しかし便利なものには必ず落とし穴があるものだ。

 ややホラー仕立てのストーリーなので、話の行方を追っていくうちに、読めてしまう。
 題名にもなっている裏庭の穴とブタの関係はよくわからない。ブタだけでもいいのではとも思う。しかし、裏庭という、今では絶滅に近い場所を持ち出してくるのは、いかにも何かありそうで、不気味な雰囲気を盛り上げることに一役買っている。

(文學界2006年12月号)
 
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2006年12月 1日 (金)

「ポータブル・パレード」 吉田直美 (新潮2006年11月号)

 第38回新潮新人賞受賞作。
 ある家族のそれぞれの日々を綴った作品。
 姉は「去勢された猫に愛を説く伝道師」と称する男と住んでいる。
 二人の間には双子の子供もいる。
 妹はディスカウントショップに店長として勤めている。
 
 設定としてはなかなか面白いが、いかんせんリアリティが無い。
 猫に愛を説くと言うが、具体的にどのようなことをするのか一切説明は無いし、お客も全く登場しない。
 猫に愛情があるのかといえば、そうでもなく、単なるアパートの一室にケージが並べれられ、そこに猫が押し込められているだけだ。
 私だったら、こんなところに大事にしている猫など絶対に預けたりしない。
 猫を思い切り走らせたいとか言って、どこかの草原に出かけていくが、そのまま猫が逃げてしまう。なんとも無責任極まりない伝道師である。
 
 店長である妹もリアリティが無い。どこの世界に店長がパンダの着ぐるみを着て客寄せする店があるのか。店長ならもっとやるべき仕事が果てしなくあるだろうに。世のホンモノの店長が読んだら噴飯ものだろう。

 話全体が、幼稚な大人たちのままごとのように思える。作者自身のインタビューも掲載されていて、「物語にならないように書いた」と述べている。
 ならば、奇妙な設定や人物など登場させないで、もっと普通の人々の暮らしを素直に書けばいいのではないか。
 
 選評もすべて低調で、他に良いのがないから仕方なくこれにしたという感じが文章から滲み出ている。
 落選した他の作品と並べて読めば、少しはこれも良く見えるのかもしれない。しかし実際誌面上は、平野啓一郎や絲山秋子ら、手練れ達に囲まれているわけで、見劣りすること甚だしい。
 
 と、ここまで書いたことは、これを読んだ者なら誰でも言いそうなことなので、無理矢理、別のことを言ってみる。
 「猫の伝道師」「パンダの店長」、いずれも馬鹿馬鹿しいほど、リアリティがない。しかし、今の世の中でリアリティを持って、自分の仕事を語れる人がどれだけいるだろうか。勝ち組負け組という空虚な線引きで仕事を分類すれば、成功者であるはずの勝ち組のやっている仕事には何のリアリティも無い。今の世の中、虚業ほど、富の数字が集まってくる。
 つまり、リアリティの無い仕事ほど、今どきの仕事なのだ。 
 そういえば、逮捕される直前、かのホリエモンは人類愛やら世界平和の実現などとのたまっていた。虚業人としては究極の言葉である。
 「猫の伝道師」という存在は、まさにそんな今の世を象徴している馬鹿らしさである。
 作者は、ふわふわとした空虚な家族を描くことで、逆説的なリアルを、読む者に、そっと突き付けているのだ。



 こんなふうに見方ひとつで小説なぞ、悪くも見え、良くも見えてくるということだ。世の批評など気にせずにこれからもがんばってください。

(新潮2006年11月号)

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