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2006年12月 1日 (金)

「ポータブル・パレード」 吉田直美 (新潮2006年11月号)

 第38回新潮新人賞受賞作。
 ある家族のそれぞれの日々を綴った作品。
 姉は「去勢された猫に愛を説く伝道師」と称する男と住んでいる。
 二人の間には双子の子供もいる。
 妹はディスカウントショップに店長として勤めている。
 
 設定としてはなかなか面白いが、いかんせんリアリティが無い。
 猫に愛を説くと言うが、具体的にどのようなことをするのか一切説明は無いし、お客も全く登場しない。
 猫に愛情があるのかといえば、そうでもなく、単なるアパートの一室にケージが並べれられ、そこに猫が押し込められているだけだ。
 私だったら、こんなところに大事にしている猫など絶対に預けたりしない。
 猫を思い切り走らせたいとか言って、どこかの草原に出かけていくが、そのまま猫が逃げてしまう。なんとも無責任極まりない伝道師である。
 
 店長である妹もリアリティが無い。どこの世界に店長がパンダの着ぐるみを着て客寄せする店があるのか。店長ならもっとやるべき仕事が果てしなくあるだろうに。世のホンモノの店長が読んだら噴飯ものだろう。

 話全体が、幼稚な大人たちのままごとのように思える。作者自身のインタビューも掲載されていて、「物語にならないように書いた」と述べている。
 ならば、奇妙な設定や人物など登場させないで、もっと普通の人々の暮らしを素直に書けばいいのではないか。
 
 選評もすべて低調で、他に良いのがないから仕方なくこれにしたという感じが文章から滲み出ている。
 落選した他の作品と並べて読めば、少しはこれも良く見えるのかもしれない。しかし実際誌面上は、平野啓一郎や絲山秋子ら、手練れ達に囲まれているわけで、見劣りすること甚だしい。
 
 と、ここまで書いたことは、これを読んだ者なら誰でも言いそうなことなので、無理矢理、別のことを言ってみる。
 「猫の伝道師」「パンダの店長」、いずれも馬鹿馬鹿しいほど、リアリティがない。しかし、今の世の中でリアリティを持って、自分の仕事を語れる人がどれだけいるだろうか。勝ち組負け組という空虚な線引きで仕事を分類すれば、成功者であるはずの勝ち組のやっている仕事には何のリアリティも無い。今の世の中、虚業ほど、富の数字が集まってくる。
 つまり、リアリティの無い仕事ほど、今どきの仕事なのだ。 
 そういえば、逮捕される直前、かのホリエモンは人類愛やら世界平和の実現などとのたまっていた。虚業人としては究極の言葉である。
 「猫の伝道師」という存在は、まさにそんな今の世を象徴している馬鹿らしさである。
 作者は、ふわふわとした空虚な家族を描くことで、逆説的なリアルを、読む者に、そっと突き付けているのだ。



 こんなふうに見方ひとつで小説なぞ、悪くも見え、良くも見えてくるということだ。世の批評など気にせずにこれからもがんばってください。

(新潮2006年11月号)

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