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2006年11月26日 (日)

「夢を与える」 綿矢りさ  (文藝2006年冬号)

芥川賞受賞第1作と銘打たれている。
芥川賞を獲ったのはいつのことだろうと思わず指折り数えてしまうほど、その記憶は遠い。
「インストール」文庫版に短編が掲載されていたはずだが、あれはカウントされないのだろうか。
そういう疑問はあるにせよ、とりあえず、満を持した作品である。

内容はというと、まさに判断に困るものだ。
たぶん、いろいろな意味で、単行本になった時に物議を醸す作品である。
普通に読めば、少女マンガにでもあるような、通俗的ストーリーと言われてしまうかもしれない。
いや、どう読んでも、通俗なのだ。
ハーフの美少女がモデルとして芸能界デビューし、人気を得て、そして没落する。
いまどきの女の子が誰でも夢見るような話である。
いまさら、同人誌でもこんなベタな話はないだろう。

ではつまらなかったのか、というと決してそうではないから、厄介なのだ。
結構、読ませるし、おもしろいのだ。
文章は相変わらず、透き通るような緊張感を維持した、香り高さを持っている。
ディテールにも取材した成果なのだろうか、緻密な踏み込み方が見える。
そういう目に見える技術もさることながら、なりふりかまわず、作者が抱えたものをまっすぐに投げかけてくる、その姿勢がとてもまぶしい。
作者が抱えた何かを冷徹にストレートに読者に届けるには、こういう通俗な設定しか手段がなかったのだろう。
たとえその選択が、結果として、ベタで陳腐と呼ばれても、こうするしかなかったのだ。

これは単なる芸能界の話として読むと、何も見えてこない。
ある一人の女の子が生まれて、育ち、何を考えるようになるか、ということを冷徹に考えた小説である。
芸能界という、ある種の無菌的シャーレに入れられ培養される中で、女の子が生き物として、どう反応していくのかという観察記録でもある。
それはどこか、会田誠の絵画を彷彿とさせるリアルさを伴っている。
興味深いことは、女の子の記録が、彼女が生まれる前から始まっていることだ。
彼女の「発生」以前に、何が語られ、何が約束されたのか。
そこを忘れないようにして読むと、作者が抱えている冷たい何かに触れられるかもしれない。
(文藝2006年冬号)

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