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2006年3月31日 (金)

「ライトワーム」佐藤憲胤 (群像2006年4月号)

 イッちゃってる奴を書くことにおいては稀有の才能を発揮する作者がまたやってくれた。薬の影響だか何だかしらないが、突如繁華街に現れたナイフ振り回し男に喉笛を切られ首がちぎれそうでふらふらするような気がする男が主人公だ。
 他にこの男の恋人とその弟が出てくるのだが、この弟がまた妄想の固まりで自分のことを6核と称している。後半は男と6核の交流が描かれていて6核が妄想の力で男の不安定な首をすんなり治したりしている。

 わけがわからない話と断ずることもできるが、それと切り捨てられない何かを持っている。男の日常は極めて普通である。航空券のネット販売を地道に手掛け堅実な経営を行っている。首が切られてふらふらする気がすること以外はまともな社会人なのだ。
 

 人は誰でも少なからず狂気を秘めているものだが、どこまでが正常でどこから狂気なのかは誰にも決められない。そのものさしの外にいる人が誰もいないからだ。狂気のスタイルは時代によって変わる。しかしそれはテレビや新聞がつくる「事件」という型紙を通したら最後、本当の姿が全く見えなくなってしまうものだ。作者は必死に今ここにある狂気のかたちを生のまま描こうともがいている。

(群像2006年4月号)

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2006年3月30日 (木)

「野良おばけ」吉田知子(文學界2006年4月号)

 どうやら主人公の女はお化けらしい。人が死ねば幽霊になるのが普通だが、どこをどう間違えたのか、この人はおばけになってしまった。おばけは幽霊より地位が低いらしく、なんだか居心地が悪そうだ。どうも人をたくさん殺さないとおばけを卒業できないらしく、おばけのくせに絶望の淵にある。なんとも不思議な味を持った話である。
 女の語り口が存在が薄そうで、いかにもおばけという感じなのがいい。死の問題に対して、おばけという意外な選択肢を出してくるところなど、若い者とは違う作者独特の達観ぶりが見えて、おもしろい。

(文學界2006年4月号)

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2006年3月29日 (水)

「腹中花」桑井朋子(文學界2006年4月号)

 待ち合わせの駅に佇む女。相手の男は時間になってもやって来ない。心配になり男の家に電話をかけようとする。その時突然背後から声がかかる。「倉本さん、深夜に電話を使うとみんなに迷惑ですよ。病室に戻りなさい」白い服を着た女、それは看護婦だった。

 待ち合わせは女の妄想、女は胃がんの手術の後遺症でぼけが出ていたのだ。やるなバアさん。まんまと冒頭で騙された。作者は昨年七十を越えた新人と話題を呼んだ女性である。やはりただ者ではない。てっきり老年のドロドロした不倫劇が展開するかと思いきや、前作同様のしたたかで飄々とした老人達が逞しく動き回っている。

 大病を患って入院した時に同じ病室だった三人の老婆。三者三様の境遇がそれぞれに語られる。どこにでもいそうな関西の老婆達。しかしそれぞれの心の奥には誰にも知られない深い闇がある。その闇は腹の中の花=腫瘍となって顕在化したのだろうか。そんな奇妙な想像も浮かんでくる物語である。

(文學界2006年4月号)

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2006年3月28日 (火)

「静かな夜」佐川光晴 (群像2006年4月号)

 前作は頭痛という病を巡って夫婦が苦しみやがて再生への扉に至るという話だったが、今回もやはり家族が苦しみから快復へと向かうパターンを踏襲している。パターン化しているとはいえ、それは単なる自己模倣に陥ることはなく新しい視点を加えてくるところはさすがだ。

 不慮の事故で息子を喪い、続けて夫まで亡くしたゆかりは、まだ幼稚園児の娘と二人の暮らしを始める。そこに現れた「亜紀ちゃんのママ」。まだ20代半ばのこのヤンママは、子供のことより自分の恋愛や欲望を優先するタイプで、およそゆかりとは正反対の性格である。
 娘同士が幼稚園で同じクラスという縁で、ゆかりはこの親子につきあうようになるのだが、結局、向こうは都合の良いベビーシッターができたくらいにしか受け止めていない。そうした態度に怒りを覚えるゆかり。
 仕事も私生活もままならない中、ゆかりはとうとう自暴自棄になり急性アルコール中毒で入院する。そこで出会った医師から彼女はある言葉を告げられる。「相身互い」。このわかりにくい言葉に衝撃を受け、再生へのヒントを感じていく。

 相身互い。なんとも不思議な言葉である。辞書を引くと「(相身互身の略)同じ境遇や身分の者は互いに同情し合い助け合うべきであるということ」。表面の意味だけ見れば、ただの当たり前のことを言っているだけなのだが、「相身互い」と言葉を口の中でころがすと、なんとも奇妙な感じがしてくるのが不思議である。
 印象に残る言葉というのは、聞いた後でも喉に小骨が引っかかっているような、どこか違和感があるものだ。その違和感こそが言葉の真意が隠されている。ゆかりとヤンママは正反対の性格で、理解しあうことはこれからも難しいだろうが、それでもどこかで二人は互いを必要としている。「相身互い」という言葉の違和感をあえてそのままにしながら、彼女たちは再生への道を進んでいくのだ。

(群像2006年4月号)

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2006年3月27日 (月)

「シャルル・ド・ゴールの雨女」寺坂小迪 (文學界2006年4月号)

 悪天候のため飛行機が遅れているため空港のカフェで時間を潰す女。
 彼女は寝たきりの祖母から託された手紙を持ってパリまでやってきていた。しかし受取人の住所に目指す人はおらず失意のまま帰国便を待つ。
 そこに、パリで暮らしているという中年女性が話しかけてきた。知り合ったばかりだというのに、お互いの身の上話や、ふつうは他人に言うのが憚られるような心の奥に引っかかっているわだかまりさえも語り合う二人。異国の孤独が二人の心をオープンにしたのだろうか。
 中年女性はやがてその祖母の手紙の受取人を捜してあげると言い出す。その代わりにある条件を彼女に提示するのだ。

 雨のパリの空港というシチュエーションといい、祖母が託したフランスへの手紙といい、なんだか安いメロドラマのような設定でもうひとつリアリティに欠ける。例えば辻仁成とかなら、こういう腐女子的設定だとしても、もっとえげつないほどその設定を使い切ると思う。もう少し嘘の付き方に磨きをかけたほうがよいようだ。
(文學界2006年4月号)

ボンジュール!パリのまち
ボンジュール!パリのまち伊藤 まさこ


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2006年3月26日 (日)

「森のお菓子屋」小野正嗣 (文學界2006年3月号)

 童話的世界と現実の日常がシームレスに語られる時、読者はそれぞれの世界に隠されたルールに気付く。
 今日があって明日がある日常。ショッピングセンターから送られてくるチラシには有効期限がある。
 しかし童話的世界では時間の概念は曖昧だ。お菓子屋で売られているケーキには賞味期限など存在しない。
 直線的で不可逆の時間ではなく、ただループ運動を繰り返すだけの永遠があるだけだ。だから白雪姫は年をとらないしお菓子の家は腐らない。
 
 しかしそれぞれの世界が地続きになると奇妙な化学反応を起こすらしい。
 お菓子には蝿がたかるし、お菓子の品質についてクレームをつける客まで登場する。まるで近所のスーパーで不良品を見つけたように。

 作者が繰り返しこうした童話と日常の融合をモチーフにした作品を書くのか理由はわからない。
 はっきり言ってあまり気持ちの良い作品ではないし万人にウケるものでもないと思う。
 しかし少なくともこうした奇妙な物語からのメッセージを時々受け取ることで、我々は知らないうちに自分が属する世界を相対化できる眼を養えるのだ。
(文學界2006年3月号)

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2006年3月25日 (土)

「羽田発小樽着、苦の内の自由」笙野頼子(すばる2006年4月号)

 群像に発表された前作「だいにっほん、おんたこめいわく史」は作者のシャーマン的筆致がフルに発揮されたものだったが、今回は、再び、現実の世に還ってきた。しかしその内容は死をはじめとする別の世界との往還に満ちている。例によって、「おんたこ」に対する創作合評をくさしたり、文学賞選考人事に対する異議申し立てなど、現実的な生々しい世事に触れたりしているが、その後、すぐまた死というものと向き合って、自由自在の心の飛翔を試みている。

 ある意味、これは前作、前々作、そのまた前々々作から繋がっているということも言えて、実際彼女は終わりのない作品をずっと書き続けているのかもしれない。それはさまざまな神の声に対する実に誠実な態度なのだ。

(すばる2006年4月号)

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2006年3月24日 (金)

「王さま消えたその後で」中山智幸(文學界2006年4月号)

 文學界新人賞受賞第一作。ある日、朝起きると指に赤い糸が巻き付いていることに気付く主人公の新藤(女性)。不思議なことにそれは毎日続くが、全く心当たりがない。友人のサハラくんは、自分で寝ている間に付けてのではないかと推理する。気になる彼女は、死んだ祖母の家に行くことでその原因を知ることになる。

 ややミステリータッチであり、トワイライトゾーンのような超常的な世界に最後は読者をいざなう異色作。受賞作からはおよそ想像の出来ない別の方向に一歩踏み出している。

 サハラくんとの微妙な関係を様々なシチュエーションを与えて描こうとしているようだが、結局サハラくんがあまりよくわからない者のまま終わっている感がある。超常的なイメージを生かすためには、サハラくんのような常識的なこっち側の人間こそきちんと書く必要があると思う。
 こういう作品を見ると、改めて絲山秋子の描いた「沖で待つ」に登場する太っちゃんなどは超常的であるのに極めて常識的でもあるという、よくできたキャラだなと思ってしまう。まあ方向性が違うから比べても仕方ないのだが。

(文學界2006年4月号)

沖で待つ
沖で待つ絲山 秋子


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2006年3月23日 (木)

「まん丸の空に」樋口直哉(すばる2006年4月号)

 催涙スプレーで人が襲われた。犯人は自分の通う学校の制服を着ていたという。どういうわけか同級生の女は主人公が犯人と疑っている。女と現場に向かう主人公は、徐々に自分が犯人ではないのかという疑念に包まれていく。テストに他人の名前を書いてしまったり、知らない間に防弾チョッキを着ていたり、最近の自分の行動と思考に自信が持てないからだ。

 女の疑念はなんとか晴れたが、主人公の自分自身への疑いは晴れない。極めつけは鞄から催涙スプレーそのものが出てきたことだ。本当に自分は犯人ではないのか、犯人が捕まったと聞いても、それは自分以外の犯人だということにすぎない。彼の不安は最後に現実となる。

 夢遊病者のように、自分のしたことに対して、記憶がない男。何が原因でこうなってしまったのかわからないが、こんな状態ではとてもまともな生活はできない。彼はそうした不安に終止符を打つために、催涙スプレーに救いを求めたのであろうか。

 人間はもともと、恣意的な存在で、すべての行動と選択に対して、確固たる理由をもって判断を下しているわけではない。なんとなく、といった感じでずいぶん多くのことを決めているものである。そういうなんとなくが積み重なって、実は今の自分に至っているわけだが、あまり普段そういうことは感じていないものである。

 よく犯罪者で、魔が差したとか、悪魔が自分の中に入ってきたとか言う者がいるけれど、それは実際、なんとなくの延長線上にあるカタストロフィであり、ふとしたきっかけで誰の身にもふりかかるものなのかもしれない。

(すばる2006年4月号)

月とアルマジロ
月とアルマジロ樋口 直哉


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2006年3月22日 (水)

「ニナンサン」  中上紀(新潮2006年4月号)

 韓国で出張中に交通事故に遭う。その時妊娠初期であったが子供は無事でその後出産。事故の時に入院していた病院にお礼に行くついでに、父が昔、家族の健康を願って登ったというニナンサン(仁王山)に行く。
一緒に来ていた晴美はその頃街で知り合った韓国男とデートしていた。不倫中の晴美はその苦しみから逃れようと男と遊んでいたのだ。

 女であることのどうしようもない哀しさに満ちた話である。
しかしそれよりもなによりも女同士で旅をするというはいろいろあって難しいものだなと思う。こちらから誘ったくせに、一緒に行くとなると断ってもらったほうがよかったようなことを思っているし、旅先での相手の自由な行動に対していらいらしたり、軽蔑していたかと思うと急に同情したり、大変である。そんなことなら一人でさっさと行けばいいのに、それはそれで嫌なのであろう。
 こんな二人旅なら、新潮45のオバハン&志麻子の韓国男漁り旅のほうがよっぽど健全である。 (新潮2006年4月号)

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