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2005年12月24日 (土)

「上海テレイド」高瀬ちひろ (すばる2006年1月号)

 すばる文学賞受賞第1作。受賞後すぐに次作が出るところをみると、この人も昨年の受賞者、中島たい子のようにカジュアル量産型作家になっていくのだろうか。
 受賞作「踊るナマズ」は民話を絡めた形で、夫とのなれそめのようなものを書いていたが、今回はもっとヘビーな姉と弟の近親相姦の話である。もともと性に対して奔放だった姉が、その欲望の対象を弟に定め、追いつめていく。姉の舌なめずりするような弟への欲望の濃さは、とても普通の姉弟の関係には見えない。「踊るナマズ」の夫婦のほうが、よほどあっさりしていて、きょうだいのようである。
 
 弟は姉の思いを受け止めたために、深く傷つき、姿を消す。そして自分の存在を意味深に表すように上海からテレイドスコープを送ってくる。それをきっかけにして姉はテレイドスコープ作家(!)となる。このあたりどうもレディースコミックっぽくて、なんだかなあと思うのだが、こんな感じのオチのほうが、最近の夢見るOL読者などにはウケるのか?

 前作も含めて、作者は性にまつわる物語を切り口を変えて描いていて目の付け所はおもしろいと思うのだが、残念ながらどこか類型的で、読んだ後もあまり強い印象を残さない。書いている本人でも説明がつかないような感情を丹念に見つけていくのが作家としての真骨頂だと思う。とりわけ性については特にそれが言える。最近の秀作としては、桐野夏生の「タマス君」(群像2006年1月号)が良い例である。友達のひきこもり息子を預かった末に襲われ、その果てに生じる思いがけない感情に翻弄される40代の女性の話であるが、これを読むとなんともいえない不思議な気持ちになる。性というのは現代ではとかく精神分析のような物語に収束しがちだが、それを超えた化け物のような本性があるのだということを認識せざるをえない。そうした排除され隠蔽された部分を見つけていく作業によって、我々の世界はまた新たに更新されていくのだろう。
(すばる2006年1月号)

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2005年12月23日 (金)

「ザ・パインハウス・デッド」舞城王太郎 (新潮2006年1月号)

 待望の「ディスコ探偵水曜日」第2部。第1部の掲載(2005年5月号)からだいぶ時間が経っているので、今までのストーリーの細部を忘れてしまった。一度前に戻ってディテールをチェックして、ようやく臨戦態勢。第2部がなかなか出ないので、ひょっとすると往年の半村良のように、あっさり中断とか二十年も経ってから復活とかいうことになるのではないかという妄想さえ浮かんだが、なにはともあれ続きが読めてとても嬉しい。
 
 バラバラになった梢の魂と身体を一体化するために、東京からはるばる福井・西暁町のパインハウスにやってきたディスコ探偵。第1部でキングコング対ティラノサウルスばりの壮絶な戦い(この決闘シーンは第1部の白眉!)を演じた謎のマッチョ、水星Cももちろん同行している。このパインハウスでは名探偵が集結しており、この屋敷にまつわる謎を解明しようとしているが、その謎解きに失敗したものは、いずれも死んでいる。
 屋敷に入るやいなや、豚のぬいぐるみの中に梢の魂を見つけるディスコ。梢の言葉と水星Cの神懸かり的な発見によって、パインハウスの持つ意味を示唆され、梢を助けるための方策を考えるが、謎はさらに深まるばかり。そんな中、名探偵の一人がある推理を披露し、いよいよ大団円かと思うのもつかのま、彼もあっけなく死に、物語は全く終わる気配が無い。どうやらこの話、第3部以降まだまだ続くようだ。

 第1部と違って、ひっかかるのは「文脈」という言葉だ。違う文脈=間違った推理をした名探偵には死がもたらされる。大胆な深読みをすれば、これは批評という問題にも繋がっているのではないか。名探偵=批評家と考えると、誤読した批評家は抹殺されるのだ。小説は本来多義的なものであり、どう読んでも間違いではなく、誤読されればされるほど、その物語はテキストとして豊かなものになっていくと考えたいところだ。しかしそこを作者の側が厳しい縛りをもって、読者と批評家に対して臨むという姿勢を示すのも、ちょっと挑戦的でおもしろい。テキストは誤読が許されるということで、名批評家なる人々からさんざんつまらない解釈を山のようにされてきたことへの舞城氏流のお返しかもしれない。
 ある意味、この物語は読者も生き残りを賭けたバトルロワイヤルなのだ。ホロスコープやら単語パズルや意味深な紋章など、読者を誤読に誘う罠は豊富に仕掛けられている。謎大好きのミステリー餓鬼などは真っ先に飛びつくこと受け合いである。そうした罠に惑わされずに、作者がそっと密かにさしのべる手を見つけた者だけが、真の読者であり名批評探偵としての名を勝ち取ることができるのであろう。
 などと、こんな深読みをしている私自身も誤読者のひとりとして、ふるい落とされる可能性は大いにあるわけだが。
 ともかく早く続きを読ませてほしい。また半年おあずけというのは、とげとげ豚に閉じこめられた梢くらい息苦しいものだから。
(新潮2006年1月号)

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