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2005年11月16日 (水)

「栄螺のある陸」楠見朋彦 (文學界2005年11月号)

 高校の同級生二人が、会津若松にある栄螺(さざえ)堂で再会し、思い出を語り合う。栄螺堂は、さざえという名の通り、堂内がらせん階段になっており、日本でも珍しい形の観音堂である。上りと下りが別々の階段になっているので、参拝者がすれ違わずに済むようになっている。その階段を上がり降りしながら、彼らは思い出を語り合う。ここを再会の場所に選んだのは、高校時代にこのお堂について夢中になったためだ。

 物語は、栄螺堂の由来などを絡めながら、彼らの過去と現在の境遇が明らかにされてゆく。由来や歴史ごとの記述が少し生硬で、物語の中に溶け込みきれていない感があるが、このお堂で彼らが再会しなければならなかった気持ちは伝わってくる。実際読んでいて、昔の友人に会いたくなるような気分に襲われる。
 
 ただし、彼らは決して互いに傷を舐め合うようなことはしない。ただ静かに思い出を語り、今までの人生の中での互いの存在を確認していく。それは自分の人生に他者の視点を入れることで、対象化し、ただ美化された主観的な人生の思い出でなく、厳しく自立した人の歴史として昇華する作業のようにも映る。その作業は、栄螺堂という上り下りが別々のルートになっている階段で語られることで、一段とその意味を明らかにしているようだ。今まで上がってきた過去の道とは違う道を降りていくこと、そして過去の道は遠ざかることなく、すぐそばに見えていること。その事実を実感しながら、彼らはまた10年後の再会を約束する。現状の生き方で生じるほつれを正し、またこれから歩まなければいけない未来のために、昔の友人という過去は必要なのだろう。
(文學界2005年11月号)


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