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2005年11月22日 (火)

「ベンちゃんの『誰も知らない』」中沢けい (新潮2005年11月号)

 子供の頃から音に敏感で、授業中も遠くから聞こえてくる珠がはじけるような音に耳をすませていた主人公ベンちゃん。やがて音大を卒業して中学の音楽教師となる。吹奏楽部の顧問をしていたが、そのハードな練習が父兄達の不興を買い、自らその職を辞任する。

 音楽の楽しさを教えることは難しい作業だ。ひとつ教え方を間違えると、生徒にとっては単なる苦行にしかならず、音楽という教科は恐怖の存在として記憶に一生刻まれる。かく言う私もそのパターンで、小中高校を通じて音楽の授業で楽しい経験は一度もない。家で聞く流行歌をはじめとした様々な音楽はいつも楽しかったのに、なぜ音楽の授業はかくもつまらない記憶しか残していないのか。それをすべて教師の責任にするつもりはないが、やはりプリミティブな次元での音楽の持つ官能性を伝えようとしていなかったからかもしれない。

 この作品を読んで、思わず人気マンガの「のだめカンタービレ」を思い出したのだが、「音がわかる」人々は幸せである。音を言葉で語ることができ、それを手がかりにある種の官能を手に入れることが可能だからだ。
 そうした経験を分け与えられる教師は素晴らしいが、残念ながらベンちゃんはそういうタイプの教師ではなかったようだ。

 最後にベンちゃんは映画『誰も知らない』を観ながら、今後の自分の進む方向を考える。このあたりは映画を観たことがあれば、さらにその思いが伝わってくるのだろうか。そのへんはちょっとわからない。
(新潮2005年11月号)

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