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2005年9月 8日 (木)

「明日なき身」岡田睦 (群像2005年9月号)

 生活保護を受けて暮らす老作家の生活。そこに病気が加わり、挙げ句の果ては妻との離婚調停のごたごたまで加わって、普通に想像するような老人の質素で静かな生活という図からはほど遠い状況になっている。
 無頼派という言葉も絶滅した現代において、まだこうした生き方が存在したかと驚いてしまうが、もしかすると、実はこうした状況のほうが今の現実に近いのかもしれない。若手作家が描く話には自己の内面の葛藤や恋愛ごっこが多いけれど、食うことや寝るところに困ったりという切羽詰まるという話はあまり見ない。それは若者が回遊する街には生き倒れがいないからだ。自分に見えないものは書くことができない。老人や弱者が多く住む場所には、宿無しや生き倒れがもはや日常の風景と融合して存在している。これからさらに階級社会化が進めば、ここに描かれているようなサバイバルが近くの現実となるだろう。

 客観的に見て、この主人公の生活は悲惨だが、語り口にどこかきままな風情が漂う。それは決して楽天的ではないけれど、死ぬほどのことはないといった、あっけらかんとした逞しさが読む者の救いとなっている。所詮身から出た錆と断じることもできるが、それもまた人生なのだ。
(群像2005年9月号)

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